モグラびと(ジェニファー・トス)

モグラびと ニューヨーク地下生活者たち

モグラびと ニューヨーク地下生活者たち

毎朝通るとある橋の上で、その橋の博士を名乗る(ホームレスの)おじさんが「ビッグイシュー」を元気良く売っているのだけれど、この本で扱われているモグラびと(The Mole People)というのは(基本的に)地下で生活するホームレスの人々のこと。
携帯も通じないし法も行き渡らない地下。モグラびとの大半はドラッグやアルコール中毒だったり、精神を病んでいたりするらしい。そして地下深くなればなるほど、そこに住む人も濃くなっていくらしい。
彼らはドブネズミを殺して食べたりタバコのために簡単に人を殺したりもしてすごく動物的な一方、初めてみかけた人に一枚しかない毛布を渡してあげたり、市長を擁するコミュニティを形成してお互い助け合って生きていたりもして…というニューヨークの地下に広がるめくるめくトンネル世界を新人ジャーナリストの女性が体を張ってレポした本。

学生時代にベトナムに旅行したとき、オープン・カフェでくつろいでいたら片足のない負傷兵の格好をした人が寄ってきて無心された。アジアを旅行しているとストリートキッズに手を差し出されたりすることは珍しくないけれど、そういうときは無視するしかない、というか無視するものだと決めつけていて気まずい思いをしながらも黙殺していた。
だけどそのとき近くに座っていた欧米人が彼にお金を渡して、彼も大人しくもらって立ち去ったのを見て、驚いたのを覚えている。私が勝手に怯えていたよりずっとごく穏やかで普通のやりとりだったから。
暗い地下トンネルと同じで、彼ら一人一人の顔がみえれば、無闇に怖がることもないのだろう。自分自身が彼らとコミュニケーションがとれるほどにもっと強ければ、私にも対応できるのかもしれない。
Big Issueにそのうち興味のそそられる特集が出たら、私もあの博士に声をかけてみようと思っている。