春に雪が溶け出すように、涙が止まらなかった。
大人になってもこんなふうに泣くんだなあと思った。
ああ、もうそれ以上言わないで、眼鏡の奥で潤んでくる瞳を感じてそれしか考えられなくなって
でも私を擁護する彼の口調は止まる兆しもなく、
涙はもう誤摩化しきれなくなってどんどんこぼれてきた。
意外な事態に彼はどうしたものか見て見ぬ振りをしようとしていたけれど
ついに私が眼鏡を外して「すみません」と涙を拭きながら言ったら、
「全然、泣くようなことじゃないだろう」と当惑した声で言っていた。

その通りだよ!自分でもわかんないよ!と思いながら「ちょっと体調が悪いので」と返事にならないようなことを答えて、でもその後で、取引先に頼まれた事案で先日彼に却下された件についてもう一度交渉したらあっけなく許可が降りた。
もうなんでもいいからはやくこの場を収めたかったのだろうなー。


そう、仕事で泣いちゃいました。社内だけど。
しかも怒られたわけじゃないのに。発生しかけたトラブルに、問題ないと、むしろ大変だったねと、こちらは悪くない、心配ないからと諭されていた時に。
まったく無意味な涙。


仕事で泣くなんて最低だ、という意見もあるでしょう。ごもっとも。
だから女はいやだ、という人もいるでしょう。そうかも。
実際私が男性だったら彼は立腹していたかもしれない。
でも私は実際女で彼は男で、仕事だからってそれがまったくないことになるわけじゃないのです。
あーもう思い切り泣いちゃったもんね。ふん。
それでもちろんその後深い自己嫌悪の闇に襲われるわけですが…。
これが今後どう影響するかみものです。とほほ。


くだんの取引先に、
先日の件、OK出ましたよ、と連絡したら案の定とても喜んでいた。
「渾身の説得で」
と言っておきました。