早春

監督:小津安二郎
脚本:野田高梧小津安二郎
出演:淡島千景池部良高橋貞二岸惠子ほか
三鷹市芸術文化センター


見始めてすぐにまずいなと思った。
メインキャストであるスギのような男(池部良)も、金魚のような女(岸恵子)も、私は好きじゃないからだ。しかも不倫関係にある2人(!)。さらに気分は悪い。なのにこの映画は144分もあるのだ。
でも結局この長い映画は、不倫がメインのメロドラマではなくやっぱりサラリーマン(=平凡な人)哀歌で、相変わらずそこここに効いている常温のユーモア、続きのあるエンディングと相まってそんなに悪くなかった。


「あの頃が、人生の春だね」
川辺で、ボートを漕ぐ青年たちを見て話すスギと小野田さん(笠智衆)。
小津の映画は、年をとればとるほど身に沁みそうだ。初めて小津映画を観た時からしばらく経って、私にもあの頃より少しだけ沁みてきて時の流れを感じた。


評価:★★★☆☆


その他
・バーの旦那が星野仙一に見えて仕方なかった…。
・スギの妻のところに女友達が遊びに来て、一緒に夕飯を食べようということになった時、「私お肉買ってくる」という友人に「買い物かごそこにある」といって壁のかごバッグをさっと持って行ったりするところや、彼女の着ている花柄の浴衣や着物は思わず注目してしまうほどすてきだった。
・洋服の女の人たちもかわいー。アップにした髪型、フレンチスリーブの白いブラウス、裾広がりのスカート。こんなOL望むところだ(レトロ趣味で御免あそばせ!)。
・サラリーマンも自営業も、なにやったって大変なんだから好きに生きるが勝ちよ。
・昔は玄関は御簾だけかけて扉は開けっ放しが普通だったのかな?気持ちいい風が入ってきたりするのだろうなあ(噂好きのおせっかいなお隣のおばさんも入ってくるけど)。
・夫と二人分の布団を一人で敷き、夫が脱ぎ捨てるジャケットやシャツをひろって回る、専業主婦たる奥さんの姿にお手上げ。夕方からコトコトお料理をしたり、お裁縫をしたりする豊かさをいいなあと思う一方、こりゃないわと思った。夫をいかに手なづけるかに心を砕くなんて平和なようだけど。