春の嵐(ゲルトルート)(ヘルマン・ヘッセ)

春の嵐―ゲルトルート (新潮文庫)

春の嵐―ゲルトルート (新潮文庫)

ヘッセ33歳の時の作品。既にかなり成熟していて、信じられない若さ。
ただ、もしかしたらもっと晩年だったら、タイザーのことも子どもっぽいとは描かなかったかもしれないと思う。
善人が軽んじられるのはつらい。一緒にいると快く、相手は自分を慕ってくれ、自分も相手を好きなのに、どこかで満足できない関係というのは仕方がないけれど切ないものだ。
わりとどの登場人物も魅力的だった。主人公は案外はっきりと周囲の人の重要度をラベリングしているようで、私には寂しく思えたけれど。
孤独なムオトが最後の晩、腹を割って喋り、意外といろんな細かいことを覚えていて、思っているよりずっと愛するものに執着を持っていることがわかった、それでこちらは恥ずかしくなったり感激したりした、というのは、どちらの心情も手に取るようにわかった。難しいムオトをこれだけ理解し、許し、尊重してあげられる主人公は、本当にかけがえのない友人だったろうな。
芸術家には、鋭敏な感受性によってもたらされる苦しさ、生きにくさとひきかえに、創作の深いよろこびが与えられているのだと思う。
この作品でよく理解できなかったのは詩の部分が中心だった。詩はもっと自分自身が豊かにならないとわかるようにならない気がする。
ヘッセは、もっと前に読んだら、あるいは難解で退屈に感じたかもしれないとつくづく思うけれど、同時に、今回わからなかった部分があることは、この先の自分への楽しみを与えたようなものだ。
相変わらず、滋養に満ちた言葉とストーリーで、今回もすっかり魅了された。ヘッセラブ。