妊娠カレンダー(小川洋子)

妊娠カレンダー (文春文庫)

妊娠カレンダー (文春文庫)

同年代の女性が2人、職場で妊娠しており、ふたりとも年内出産予定なので、そろそろお腹がだいぶ目立つようになってきました。
申し訳ないことに、私はそれを見て生命の神秘を感じて感動したり、彼女たちの身重さを案じたりする気持ちより、突然丸々と太ってしまった彼女たちに戸惑い、不自然に変形した体型に、グロテスクさを感じてしまうのです。歳を重ねただけ、自分の身に起きる可能性が大きくなったと思うからこそ、感情的に、妊娠は気持ち悪く、醜悪なものになった気がします*1。とにかく今は、自分の躯があんなふうになるなんて、想像したくもない。


便利で快適で、高度に(むしろ、過度に)発達した生活を送っている現代の私たちにとって、妊娠なんて普通に考えたら、とんでもなく憂鬱でおそろしい経験だと思う。松村栄子氏による解説の「子供ができた、ああ嬉しい、産めよ殖やせよ地に満てよと素朴に喜ぶためには、わたしたち自身の生命がすでにあまりに希薄だ。」という一文にまったく同意する。
この作品では、ファンタジックに描かれがちな妊娠・出産をグロテスクな変化として静かに、恐れながら観察している部分で共感できたし、嬉しく思った。
彼女が農薬が用いられたオレンジを妊婦に与え続けたのは、きっと、それが赤ん坊の染色体の破壊に繋がるかもしれないと考えることで、この妊娠・出産という得体の知れない現象を彼女なりに掴もうとしたのだと思う。
それにしても、たくさんオレンジもらったからってジャム作ろうだなんて、格好いいね。私には到底ない発想で(たぶん、ほとんど腐らせてしまうだけだろう)、私よりこの人はたくましいんだなと思った。

*1:もちろん、この感情が今後も自分のおかれた状況の変化に応じて変わっていくであろうことも理解しながら